稽古の間は、さまざまなものが、あり合わせや持ち寄りの仮りの代用品でまかなわれることになります。
安原のアロハシャツはともかくとして(これじゃ舞台はハワイの企業だ)、彼が座るのは舞台監督・金子お手製の社長机です。
よく見ると箱馬や板を組み合わせ、器用に頑丈に作られているのがわかります。
ところで役者は、長く稽古で使う道具に、妙に愛着がわくものです。
たしかに本番用の道具が届くのは嬉しいことです。
しかし、たとえ仮りとはいえ馴染んだ代用道具と別れる日には一抹の寂しさを感じずにはいられません。
さて、机の上を覗いてみましょう。
−気になります。
テープに並べられた文字の列。
こればかりは、金子のそれではなく、安原本人の筆跡に違いありません。
このテープも、本番を迎える頃には安原自身の脳に刷り込まれ、仮りの小道具として無事お別れすることができますように。
【浜野基彦】
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