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「ヴェニスの商人」で物語のカギとなる、金・銀・鉛三つの箱です。
物語の冒頭、ヒロイン・ポーシャは、我が身の上を嘆きます。
彼女の“父の遺言”によって、彼女と結婚できる男は、金、銀、鉛の三つの箱の中から正しいものを選んだ者と決まっているからです。
そして、彼女自身は、自分の意志では夫を選ぶことができません。
―つまり三つの箱は、死んでもなお生き続けポーシャを支配する、父の遺志、父の亡霊というわけです。
さて、その三つの箱を小道具としてこしらえたのが、何を隠そうこの僕なのです。
中に入っている絵やシャレコウベも、いうまでもなく僕の手によります。
そう考えると、僕は間接的に、生きているうちに箱を作った(もしくは作らせた)ポーシャの父をも演じたということになりはしないでしょうか。
同時に、その中の正解、鉛の箱を選ぶバッサーニオをも演じました。
僕は知らず知らず、人知れず、皮肉な関係の二役を演じ分けていたのでした。
ずいぶんなこじつけではありますが。
【浜野基彦】
1 件のコメント:
応援してます。今は舞台何かやってますか?
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