Fool on the 筑紫丘~虹ヶ丘~桜ケ丘

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平成19年12月24日月曜日

夢のクリスマスイヴ・名古屋編④


―こんな夢を見た


レストランへ入れておいた予約の時間が迫っている。

僕も彼女も、美しい夕陽に気をとられて、時の過ぎるのをすっかり忘れていた。

予約したレストランは名古屋港イタリア村にある。


―イタリア村

名前だけ聞くと何だか野暮ったい。

だが狭いながらもこざっぱりとした、ここは僕のお気に入りの場所なのだ。


それで、そのイタリア村はというと、ここから港のちょうど反対側に位置している。

急がなければならない。

早くたどりつくには、間に横たわった海浜公園の林をまっすぐに突き抜けるのが、もっともよい道なのだが、足を踏み入れてみて驚いた。

林の中は思いのほか真っ暗で、そのうえ日が沈んだ後の海風が、身を切るように冷たい。


―ここは回り道をするべきか

と、彼女の顔を覗き見ると、彼女は何の不安もない様子でにこにことほほ笑んでいる。

そして僕の気持ちを悟ったかのように

「行こう」

と言った。


こういう段になると、天衣無縫の彼女の方が、僕などよりも存分に頼もしい。

しかし普段、彼女の前では豪放磊落を自任している僕だ。

こんなところで弱気は見せられない。

「おう」

と一声、ガバと彼女の腕をとり、暗がりの林の中をイタリア村へ進み始めた。


いくらか歩くうち、黒い木立の間から、美しい照明に飾られたイタリア村の尖塔が見えてきた。

何だか自分たちがおとぎ話の登場人物のような気がしてきた。

城を目指し、魔の森を突き進む、王子か姫か。

しかしだとすると、うちの姫には、か弱さというものが足りない。

さっきから、組んだ王子の腕を引きずるようにして意気揚々と歩き続けている。

そして王子には意気地が足りない。

吹き付ける海風に、寒い寒いと愚痴ばかり言っている。


しかし、ともかくも、ようやく僕らはイタリア村へたどりついた。

時計を見ると、何だ、予約の時間までまだ10分もあるじゃないか。

僕は海風で体を冷やしたせいか、昼にコメダでコーヒーを飲み過ぎせいか、何をおいても手洗いへ行きたかった。


イタリア村へは何度か来たことがある。

手洗いの場所も、しぜん頭に入っている。

「ほら、ちょうどその角を曲った所に―」

僕は彼女へちょっと自慢げに言いながら、角を曲がる。

―ない。

このあいだ来た時にあったはずの手洗いがなくなっている。

「おかしいな、じゃあ、あの階段の下に―」

―ここにもない。

おかしい。


「ないはずないわよ」

と、彼女が施設案内の地図を広げた。

が、地図からしておかしい。

どこにも手洗いが示されていないのだ。

前に来た時の記憶を手繰り、確かに行ったことのあるはずの場所へ向かっても、それらはことごとくただの壁になっているのだった。


【つづく】

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