Fool on the 筑紫丘~虹ヶ丘~桜ケ丘

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平成19年12月24日月曜日

夢のクリスマスイヴ・名古屋編③




―こんな夢を見た


名古屋港水族館で遊んだあと、裏手にある広い芝生の広場へ出た。

目の前には、大きな貨物船や旅客船が、泰然と停泊している。

ほんとうは大方の船が、白に塗られている。

ただ、今だけは、すべての船体が夕暮れのその色に塗りかえられてしまった。

そしてどの船も、キラキラ、キラキラとうるさいくらい西日を反射させている。


「眩しい」

寝ころんだ芝生から半身だけ起き上がらせて、彼女が言った。

「ああいうのは何色っていうのかしら。オレンジ?赤?金色、なのかな」


「さっき、あんなのがいた」

と僕は寝たままこたえた。

「さっき?」

「そう、ほら、水族館」

「ああ何だ、魚のことね―金目鯛かしら?」

「ちがう。もっとほら、南方の、もっと不細工なやつだ」

「金目鯛だってじゅうぶん不細工よ」

「ばか、知らないのか、金目鯛はあれでものすごウマいんだ」

などと、馬鹿を言いながら起き上がった拍子に、僕も夕暮れの海を見た。

―。

息をのんだ。

言葉が途絶えた。

それほどに夕暮れの名古屋港は美しかった。

金目鯛や、あの南方の名も知らない魚の群れが、何百万匹この港に迷いこめば、こんな色が出せるだろう。


「眩しい」

僕も彼女と同じことをいった。

そうとしか言いようのない色だった。


枯れ草の芝生広場には、僕らのほか誰もいない。

クリスマスイヴに特に夕陽をめでる習慣なんてないから。

でもクリスマスイヴの夕陽というのは、こんなにも美しい。

僕ら二人だけが発見した秘密のような気がした。


僕らは何も言わず、日が沈むのを待った。

彼女は相変わらず、長いまつ毛のととのった輪郭で遠くを見つめている。

僕は、満足気に潮風を吸い込んで、そして「フーッ」と音を立てて吐き出した。

そのままドタッと芝生に倒れた。

そうして仰いだ空はもう藍色になってしまっている。

その藍の中に、すでに星が二つ三つまたたいていた。

【つづく】

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