―こんな夢を見た
栄で地下鉄を乗りかえて、上前津で降りる。
24日の大須商店街は、いつにもまして賑やかだ。
今日ばかりは人ごみも、何だか心地よい。
すれ違う人々の顔つきが、心なしか、いつもより、幸せにゆるんで見えるからかも知れない。
隣を歩く彼女も、幸せそうな顔をほころばせ、さっきから僕のほうをちらちら気にしている。
きっと僕の顔も似たようなものなんだろう。
ガラスに映して確かめたいけれど、どのショウウインドウもたくさんの品物と灯りで埋め尽くされていて、どうも上手くいかない。
だからみんなも、幸せを顔からしたたらせながら、それに気づかず歩いているのだろう。
洋服、宝石、本、お菓子、おもちゃ、かばん、靴―きらびやかに彩られた品々が、次々と目に飛び込んでは消えてゆく。
大人げもなくわくわくしてきた。
―彼女は今夜、どんなプレゼントを僕に準備してくれてるのだろう。
―だとすると、彼女はそれをどこに隠し持っているのだろう。
いっそうわくわくしてきた。
コメダでひと休みをする。
コーヒーを待つあいだ、彼女がずっとにたにたしているので、僕は
「なんだ?」
とたずねた。
「それ、プレゼント?」
彼女が、僕の隣に置いた赤い紙袋を指さす。
「どうしてわかる」
「だって、あなた、いつも紙袋なんて持って歩かないでしょう。さっきからぶらぶらさせて。気になってたわ。いつもは何か買ってもすぐに鞄につっこんでしまうじゃない」
―なるほどそのとおりだ。よく見ている。
「たいした観察眼だ」
僕がそう言うと、彼女は少し口を尖らせた。
「わかるわよ。もう2年よ」
―そう、忘れていた、彼女と出会って今日でちょうど2年がたつのだった。
僕は少し目を伏せた。
彼女に促されてはじめて、ともにすごした歳月を噛みしめる自分を、少しだけ不甲斐なくおもったから。
ただ、これはこれで思わぬ発見をしたようで、嬉しくなくもない。
それにアーケードを歩いている間、彼女も僕と同じことを考えていたのだとわかって、責められていてもやはり何だか嬉しかった。
目を上げると、彼女はまたさっきの、にたにた笑いに戻っていた。
そして目が合った途端「ぷっ」といって噴き出した。
「なんだ」
こんどは僕の方が口を尖らせた。
「だって、あなた、おかしな顔してるんだもの」
顔を上げた僕の方が、知らず知らずのうちに彼女とくらべものにならないくらい、顔をにたつかせていたらしい。
そういう自分に気がついて、僕も「ぷっ」と噴き出した。
噴き出しついでにケラケラ笑ってやった。
二人してケラケラ笑った。
ケラケラ笑っているところへコーヒーが来た。
とっさに二人とも笑いをこらえた。
そうして、また揃ってにたにた笑いを始めたから、ウェイトレスは怪訝そうな顔をしている。
含んだコーヒーは、いつもの何倍にもかぐわしく思えた。
【つづく】
栄で地下鉄を乗りかえて、上前津で降りる。
24日の大須商店街は、いつにもまして賑やかだ。
今日ばかりは人ごみも、何だか心地よい。
すれ違う人々の顔つきが、心なしか、いつもより、幸せにゆるんで見えるからかも知れない。
隣を歩く彼女も、幸せそうな顔をほころばせ、さっきから僕のほうをちらちら気にしている。
きっと僕の顔も似たようなものなんだろう。
ガラスに映して確かめたいけれど、どのショウウインドウもたくさんの品物と灯りで埋め尽くされていて、どうも上手くいかない。
だからみんなも、幸せを顔からしたたらせながら、それに気づかず歩いているのだろう。
洋服、宝石、本、お菓子、おもちゃ、かばん、靴―きらびやかに彩られた品々が、次々と目に飛び込んでは消えてゆく。
大人げもなくわくわくしてきた。
―彼女は今夜、どんなプレゼントを僕に準備してくれてるのだろう。
―だとすると、彼女はそれをどこに隠し持っているのだろう。
いっそうわくわくしてきた。
コメダでひと休みをする。
コーヒーを待つあいだ、彼女がずっとにたにたしているので、僕は
「なんだ?」
とたずねた。
「それ、プレゼント?」
彼女が、僕の隣に置いた赤い紙袋を指さす。
「どうしてわかる」
「だって、あなた、いつも紙袋なんて持って歩かないでしょう。さっきからぶらぶらさせて。気になってたわ。いつもは何か買ってもすぐに鞄につっこんでしまうじゃない」
―なるほどそのとおりだ。よく見ている。
「たいした観察眼だ」
僕がそう言うと、彼女は少し口を尖らせた。
「わかるわよ。もう2年よ」
―そう、忘れていた、彼女と出会って今日でちょうど2年がたつのだった。
僕は少し目を伏せた。
彼女に促されてはじめて、ともにすごした歳月を噛みしめる自分を、少しだけ不甲斐なくおもったから。
ただ、これはこれで思わぬ発見をしたようで、嬉しくなくもない。
それにアーケードを歩いている間、彼女も僕と同じことを考えていたのだとわかって、責められていてもやはり何だか嬉しかった。
目を上げると、彼女はまたさっきの、にたにた笑いに戻っていた。
そして目が合った途端「ぷっ」といって噴き出した。
「なんだ」
こんどは僕の方が口を尖らせた。
「だって、あなた、おかしな顔してるんだもの」
顔を上げた僕の方が、知らず知らずのうちに彼女とくらべものにならないくらい、顔をにたつかせていたらしい。
そういう自分に気がついて、僕も「ぷっ」と噴き出した。
噴き出しついでにケラケラ笑ってやった。
二人してケラケラ笑った。
ケラケラ笑っているところへコーヒーが来た。
とっさに二人とも笑いをこらえた。
そうして、また揃ってにたにた笑いを始めたから、ウェイトレスは怪訝そうな顔をしている。
含んだコーヒーは、いつもの何倍にもかぐわしく思えた。
【つづく】
0 件のコメント:
コメントを投稿