こんな夢を見た―
愛する人と名古屋にいる。
―昼過ぎに、覚王山の駅で待ち合わせをした。
いつものくせで参道へ方向をとって、日泰寺へ向かう。
「24日でもここでは関係ないのね」
と彼女が笑った。
そういえば、クリスマスイヴでも、ここは相変わらず参拝客が多い。
大きな山門をくぐり広い境内に足を踏み入れる。
するともうそこには、さっきまで町にあふれていた、鈴の音も、ヒイラギも、赤と緑のイルミネーションも、まったく関わりがないのだった。
いつもと変わりなく、読経の声と抹香の香りが
―「聖夜」などどこ吹く風
とでもいうように、砂利を踏む音の向こうから流れてくる。
ここには穏やかな日常がある。
といっても、見回すと、若者と呼べるのはやはり僕らしかいないみたいだ。
本堂へ入って、釈迦如来を拝む。
目を開けて隣を見ると、彼女はいまだ熱心に目をつむり合掌していた。
線香の煙が立ち込める伽藍に、西日が差し込んでいる。
淡いオレンジのもやが彼女の横顔を照らす。
そのくっきりとした輪郭を、長いまつげを、僕は改めて
―きれいだな
と思った。
彼女が目を開けるのを待って、僕は言った
「クリスマスなのに、ごめんね」
「何が?」
彼女はきょとんとしている。
「いや、お寺なんか来て。クリスマスなのに」
「なに、こういうのが楽しいんじゃない」
そういって彼女はコロコロと笑った。
笑いながら彼女は本堂を飛び出した。
飛び出したそのいきおいで、精一杯のびをした。
僕も負けじと、彼女のあとをまね、肺いっぱいに冬の空気を吸えるだけ吸い込んでみた。
胸を締め付けるような、どこか懐かしい、かんばしくて乾いた冬の匂いが、体中を満たした。
【つづく】
愛する人と名古屋にいる。
―昼過ぎに、覚王山の駅で待ち合わせをした。
いつものくせで参道へ方向をとって、日泰寺へ向かう。
「24日でもここでは関係ないのね」
と彼女が笑った。
そういえば、クリスマスイヴでも、ここは相変わらず参拝客が多い。
大きな山門をくぐり広い境内に足を踏み入れる。
するともうそこには、さっきまで町にあふれていた、鈴の音も、ヒイラギも、赤と緑のイルミネーションも、まったく関わりがないのだった。
いつもと変わりなく、読経の声と抹香の香りが
―「聖夜」などどこ吹く風
とでもいうように、砂利を踏む音の向こうから流れてくる。
ここには穏やかな日常がある。
といっても、見回すと、若者と呼べるのはやはり僕らしかいないみたいだ。
本堂へ入って、釈迦如来を拝む。
目を開けて隣を見ると、彼女はいまだ熱心に目をつむり合掌していた。
線香の煙が立ち込める伽藍に、西日が差し込んでいる。
淡いオレンジのもやが彼女の横顔を照らす。
そのくっきりとした輪郭を、長いまつげを、僕は改めて
―きれいだな
と思った。
彼女が目を開けるのを待って、僕は言った
「クリスマスなのに、ごめんね」
「何が?」
彼女はきょとんとしている。
「いや、お寺なんか来て。クリスマスなのに」
「なに、こういうのが楽しいんじゃない」
そういって彼女はコロコロと笑った。
笑いながら彼女は本堂を飛び出した。
飛び出したそのいきおいで、精一杯のびをした。
僕も負けじと、彼女のあとをまね、肺いっぱいに冬の空気を吸えるだけ吸い込んでみた。
胸を締め付けるような、どこか懐かしい、かんばしくて乾いた冬の匂いが、体中を満たした。
【つづく】
1 件のコメント:
「こんな夢をみた」ってくだり、確か何かの映画にありましたよね。
なにげなくテレビで観たんですけど、すごく印象に残ってます。
寒そうな雪山とか、ひまわり畑とか。
印象に残ってるのに題名も憶えてないんですけどね(^^;)
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